大学駅が支える相浦エリア:松浦鉄道が映し出す地域の姿
佐世保市を南北に走る松浦鉄道(MR)。令和5年度の年間利用者数は約344万人。この数字の背後には、通勤・通学で鉄道を利用する市民の生活が詰まっています。令和6年版佐世保市統計書のデータを詳しく見ると、意外な事実が浮かび上がってきます。
佐世保駅を抜く「大学駅」の存在感
市内で最も利用者が多いのは、やはり中心駅である佐世保駅で、令和5年度は約59.7万人が乗降しました。しかし、注目すべきは第2位の「大学駅」です。相浦エリアに位置するこの駅は、年間約31.7万人が利用しており、佐世保中央駅(約34.6万人)に迫る規模を誇ります。
なぜ「大学駅」がこれほど多くの利用者を集めるのでしょうか。答えは駅名が示す通り、長崎県立大学佐世保キャンパスの最寄り駅だからです。約1,500人の学生が通うキャンパスへのアクセス駅として、平日は学生で賑わいます。年間31.7万人という数字は、1日あたり約870人が利用している計算になります。
相浦エリアを支える鉄道ネットワーク
大学駅だけではありません。相浦エリアには複数の駅があり、地域の交通を支えています。上相浦駅(約20.3万人)、相浦駅(約7.98万人)、大学駅(31.7万人)を合わせると、相浦エリアだけで年間約60万人が松浦鉄道を利用していることになります。
また、大野エリアの泉福寺駅(約41.6万人)と左石駅(約46.9万人)も注目に値します。特に左石駅は令和5年度に大きく利用者を伸ばし(令和4年度の約39.4万人から約46.9万人へ)、地域の発展を示唆しています。
コロナ禍からの力強い回復
令和2年度、新型コロナウイルスの影響で松浦鉄道の年間利用者数は約275万人まで落ち込みました(令和元年度比約18%減)。しかし、その後の回復は目覚ましく、令和5年度には約344.8万人と、令和元年度(約336.5万人)を上回る水準にまで達しています。
この回復を支えたのは、学生の通学需要と地域住民の通勤需要です。特に大学駅は令和4年度の約32.6万人から令和5年度の約31.7万人とほぼ横ばいを維持し、安定した需要を示しています。また、中里駅が令和4年度の約7.9万人から令和5年度の約12.6万人へと大きく伸びたことも、地域の活性化を示しています。
データが語る地域の個性
駅別の利用者数を見ると、佐世保市の地域特性がよくわかります。本庁エリア(佐世保駅、佐世保中央駅、中佐世保駅、北佐世保駅、山の田駅)が全体の約40%を占め、都市機能が集中していることを示しています。
一方、大野エリア(泉福寺駅、左石駅)も合わせて約90万人と大きな利用者数を誇り、ベッドタウンとしての役割を果たしています。そして相浦エリアは、大学駅を中心に教育と生活が融合した特徴的な地域であることがデータから読み取れます。
地域鉄道の未来
松浦鉄道は単なる移動手段ではなく、地域のアイデンティティの一部です。大学駅の存在は、教育機関が地域交通に与える影響の大きさを示していますし、泉福寺駅や左石駅の利用者数は、住宅地開発と鉄道の関係性を物語っています。
令和5年度の約344.8万人という数字は、松浦鉄道がコロナ禍を乗り越え、地域に根ざした交通機関として確固たる地位を築いていることを証明しています。そしてその中心には、佐世保駅だけでなく、大学駅という「もう一つの核」が存在しているのです。
データ出典:令和6年版佐世保市統計書(第35回)「07_運輸 B_陸上運輸 01_市内駅別乗降客数(松浦鉄道)」
資料:松浦鉄道株式会社