市民の困りごと相談から見る佐世保の課題
市民相談件数が25%増加、1,387件に
令和5年度の佐世保市への市民相談件数が1,387件に達し、前年度の1,110件から25%増加しました。この増加は、市民が抱える生活上の課題が増えていることを示唆しています。
市民相談件数の増加は、必ずしもネガティブな現象ではありません。市民が行政に相談しやすい環境が整ってきた証拠とも言えます。しかし、どのような相談が増えているのかを分析することで、佐世保市が抱える課題が見えてきます。
相続相談が突出:全体の27%を占める
令和5年度の相談内容を見ると、相続に関する相談が378件と最も多く、全体の27%を占めています。これは夫婦関係の相談(119件)の3倍以上にのぼります。
相談内容の上位は以下の通りです:
1. 相続:378件(27.3%) 2. 夫婦:119件(8.6%) 3. 金銭:111件(8.0%) 4. 借家:66件(4.8%) 5. 親子:28件(2.0%) 6. 借地:24件(1.7%)
相続相談が突出して多いことは、佐世保市の社会構造を反映しています。高齢化が進む中、相続に直面する市民が増加しており、遺産分割や相続税、相続登記などの問題で悩む人が多いことがわかります。
相続相談の急増:前年比34%増
特に注目すべきは、相続相談の急増です。令和4年度の281件から令和5年度には378件へと、97件も増加しています。これは34%の増加率であり、相続問題が市民の大きな関心事になっていることを示しています。
この急増の背景には、いくつかの要因が考えられます:
高齢化の進行
佐世保市の高齢化率は上昇を続けており、それに伴い相続が発生するケースが増加しています。団塊の世代が後期高齢者となり、相続に直面する人が急増しています。
相続登記の義務化
令和6年4月から相続登記が義務化されることが決まり、これまで放置されていた相続問題に向き合う市民が増えています。義務化を前に、早めに相談しようという動きが見られます。
相続税制の変更への関心
相続税の基礎控除額の引き下げなど、税制改正により、以前は相続税と無縁だった層も課税対象となる可能性が高まり、相談が増えています。
家族関係の複雑化
核家族化や離婚・再婚の増加により、相続人の関係が複雑化しており、遺産分割で揉めるケースが増加しています。
その他の相談傾向
相続以外の相談内容も、佐世保市の課題を浮き彫りにしています:
夫婦関係の相談(119件)
離婚や別居、DV(ドメスティックバイオレンス)に関する相談が含まれます。コロナ禍を経て、夫婦間のストレスが高まっている可能性があります。
金銭トラブル(111件)
借金や債務整理、多重債務に関する相談です。経済的に困窮する市民が一定数いることを示しています。
借家問題(66件)
賃貸住宅の敷金返還や契約解除、家賃滞納などの問題です。住宅をめぐるトラブルが少なくないことがわかります。
電話相談の割合が高い
令和5年度の相談のうち、電話相談は1,068件で全体の77%を占めています。これは、市役所に直接来庁することなく、気軽に相談できる電話が市民に好まれていることを示しています。
高齢者にとっても、体力的な負担が少ない電話相談は利用しやすく、今後も電話相談の重要性は高まるでしょう。一方で、オンライン相談やチャット相談など、より多様な相談チャネルの整備も検討の余地があります。
消費生活相談も1,795件
市民相談とは別に、消費生活に関する相談も令和5年度は1,795件寄せられています。こちらは商品の購入トラブルや、詐欺被害、契約トラブルなどが中心です。
特に高齢者を狙った詐欺や悪質商法の被害が後を絶たず、消費生活センターの役割はますます重要になっています。
今後の課題と対策
相続相談の急増をはじめとする市民相談の増加は、佐世保市が以下のような課題に直面していることを示しています:
1. 高齢化対策の強化:相続問題への対応を含め、高齢者支援の充実 2. 相談体制の拡充:増加する相談に対応できる体制の整備 3. 予防的な情報提供:相続や契約に関するセミナーの開催、情報発信の強化 4. 専門家との連携:弁護士、税理士、司法書士などとの連携強化
特に相続問題は、事前の準備や知識があれば避けられるトラブルも多いため、市民への啓発活動が重要です。エンディングノートの作成支援や、相続セミナーの開催など、予防的な取り組みを強化することで、相談件数の抑制にもつながるでしょう。
市民相談のデータは、行政サービスの改善や、市民のニーズ把握において貴重な情報源です。佐世保市には、これらのデータを活用し、市民が安心して暮らせるまちづくりを進めることが期待されます。
データ出典:令和6年版佐世保市統計書 14_行政及び選挙 > 市民相談件数、消費生活相談件数