キプロスが輸出1位?佐世保港の貿易統計が教える「便宜置籍船」の仕組み
佐世保港の貿易統計を見ていて、目を疑うデータがありました。なんと、令和5年の輸出相手国・地域の第1位は「キプロス」で136億3,425万円。全輸出額の13.4%を占めているのです。
キプロスってどこ?
キプロスは地中海東部に浮かぶ島国で、人口約120万人。観光とサービス業が中心の小国です。そんなキプロスが、なぜ佐世保の最大の輸出相手なのでしょうか?
答えは「便宜置籍船」
船舶は必ずどこかの国に船籍を置く必要があります。キプロスは税制優遇などのメリットがあるため、実際には日本や他国の企業が所有する船でも、キプロス船籍として登録されることが多いのです。これを「便宜置籍船」と呼びます。
佐世保からキプロス向けに輸出されている136億円は、ほぼすべてが「機械類及び輸送用機器」、つまり船舶です。これは佐世保で建造された船が、キプロス船籍として登録され、統計上「キプロス向け輸出」として計上されているのです。
パナマも同じ理由で2位
輸出相手国・地域の第2位はパナマで154億4,048万円。これも同じく便宜置籍船の仕組みによるものです。パナマも世界最大の船籍登録国の一つとして知られています。
つまり、佐世保の輸出上位2カ国(キプロスとパナマ)で約291億円、全輸出の28.5%を占めていますが、これらはいずれも造船に関連した輸出なのです。
佐世保の造船業の重要性
この数字は、佐世保経済における造船業の重要性を改めて浮き彫りにしています。令和5年の輸出総額1,018億円のうち、機械類及び輸送用機器(主に船舶)は相当な割合を占めていると推測されます。
造船業への依存度が高いということは、世界的な海運市況の変動や、造船需要の減少が、佐世保経済に直接的な影響を与えることを意味します。輸出の多角化や、新たな産業の育成も重要な課題です。
実際の輸出先はどこ?
便宜置籍船を除いた実際の輸出先を見ると、アジア諸国が中心です:
- 香港:48億1,716万円(機械類及び輸送用機器)
- ベトナム:18億9,851万円(機械類及び輸送用機器)
- 韓国:7億3,667万円(食料品、原材料、化学製品、機械類など多様)
これらは、実際にその国で使用される製品の輸出と考えられます。
データの裏を読む大切さ
一見すると「佐世保がキプロスと大きな貿易をしている」と思えるデータも、その背景を理解すると全く違う意味が見えてきます。統計データを読み解く際には、表面的な数字だけでなく、その背後にあるメカニズムを理解することが重要です。
それにしても、佐世保の造船業が今も健在であることを、このデータは証明しています。地域経済の柱として、今後も発展していくことを期待したいですね。
データ出典:令和6年版佐世保市統計書(第35回)「05_商業及び貿易」
資料:総務省、経済産業省「経済センサス-活動調査」、財務省「貿易統計」